夕暮れだろうか。それとも曇り空の下だろうか。
薄暗い群青がかった空の下、私は父の運転する車で走っていた。
対向車も追走車もない、静まりかえった道を、父と私はただひたすらに走っていく。
道の端には枯れ折れたススキと、うら寂しく朽ちた民家が、色彩の少ない道に申し訳程度に色彩を添えていた。
父は何も喋らない。もともとそう云う人なのであった。
無駄口は叩かない。必要なことだけをぽつりぽつりと話す。昔から今まで父は何一つ変わっていない。
私もそれを重々承知していだ。だから双方、言葉を交わしたりはしなかった。
道すがら、私はある物を発見した。大きな建物だった。
地上10階はある、大きな工場であった。
白いトタンの壁は所々錆びついていた。真っ黒な屋根が、まるで雨降り前の黒雲のように垂れ下がっていた。
車が次第に通り過ぎてゆく。
すると、入り口と思しきガラス扉の上に、色鮮やかなステンドグラスが見えた。
赤、青、黄、緑、白のモザイクで作られた聖母マリアがイエスを抱きかかえた肖像。
曇天の空の放つ青黒い光に照らされたそれは、今まで私が見たどの美術画よりも美しかった。
朽ちた野で、朽ちた工場に輝く、七色の光は、歓楽街のネオンよりも、朝日に反射する草の露よりも、儚げで、清く、最も尊いものに見えたのだ。
「あぁ。」
私は思わず呟いた。
「あぁ。」
一呼吸置いて、父も口を開いた。
それは感嘆の声だったのか、それとも単なる呼応だったのかは分からない。
車はその後も荒涼とした道を、真っ直ぐ、真っ直ぐ進んでいく。
真っ直ぐ、真っ直ぐ、静かに、進んでいったのだ。